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この物語は北欧神話をモチーフにしましたが
作者の都合上一部、北欧神話とは異なるところがあります。
ご了承ください。

―登場人物紹介
―用語集
―第1章 運命の息子
―第2章 炎の剣レーヴァテイン
―第3章 仲間


―運命の息子―


かゆい かゆい かゆい
全身がうずいている。
毎年この暑い時期になると出てくる、最大の敵、アトピー性皮膚炎。
たださえ肌が弱い僕に追い討ちをかける。
「う〜、かゆいー。これじゃ、眠れやしない」
ベッドからするりと降り、母さんが5歳の誕生日に買ってくれた懐中時計を眺める。
懐中時計のふたの裏にはBeloved my childと刻まれている意味は、最愛のわが子へ。
表は綺麗な女の人と炎がえがかれていた、母さんはフレイヤって言ってた、愛の神様だ。
まるで母さんみたいに、微笑んでいる。
母さんはもういない、暴走車にひかれそうになった僕を庇って…死んだ……
この懐中時計はひかれる1日前にプレゼントしてもらった、もう、あれから10年もたっている。
今は、父さんと二人でこの大きく、静寂に包まれた家で暮らしている。
「……3時半か…」
懐中時計を頭にかけ、また、うずいてきた部分を止めるべく、台所へと向かった。
アトピーには氷を、誰かが教えてくれた。多分、皮フ科の先生。
「氷、氷、かゆいかゆい」
冷凍食品で一杯の冷蔵庫を探すと、お目当ての氷があった。
そこらへんにあったスーパーの袋に、手当たり次第氷をつめ、急いで自分の部屋へと戻ろうとした。
しかし、そのときだった……
キテ…
「??」
空耳かと思い、足早に部屋に戻ろうとした。
キテ……エラバ…レシ…
「!?、だっ、誰だ!」
キテ……エラバレシ…
謎の声がまた言う。
その声は、透き通っていて、頭に直接響いてくるような感じだった。
氷が入ったスーパーの袋を床に置き、声が聞こえる部屋へと近づいていった。
ここは確か、母さんの部屋だ。
よく、母さんにここで絵本を読んでもらった記憶がある。
けど、死んでからは、一切近づいてはいない、いや、近づけなかった。
それに、父さんが、鍵をかけているはずなのに…
「……だっ、誰かいるのか?」
恐る恐る入った部屋は静寂に包まれていて、埃が部屋を占領していた。
キテ……エラバレシ……フレイヤ…
「声はこの辺りからだな…、これは?」
床に落ちていた鏡を拾う。
一見、ただの埃を被った手鏡としか思えない。
「これから、声が聞こえたような気がするんだけどなぁ」
裏を見たり、降ったりしたがただの鏡、何も起きない。
「気のせいか、来て損した」
鏡を床に置き、部屋に戻ろうとしたその瞬間。
「来て!フレイヤ神の子よ!」
声とともに鏡が光り、僕は光りにのまれていった。


「……するんだよ。どうせ起きやしねぇよ」
荒っぽい声が聞こえる、どうやら声の持ち主は他の者と言い争ってるようだ。
そして、僕は見慣れぬ布団に寝ていて、見慣れぬ家の中にいた。
腕には包帯が巻かれており、ズキズキと痛んでくる。
部屋は畳でかなり殺風景だ、1つの引き出しと1輪の花、大きな鏡があるだけだ。
「へー、こいつがウルズの呼び出した奴か?なよっちいなぁ」
ウルズ?呼びだす?いったい何がどうなっているんだ?
僕は、あの鏡の光にのまれて、どうなったんだ?
「とにかく、こいつは俺の部屋に出てきて、うっかり契約が成立しちまったんだよ!っと、ようやくお目覚めのようだ」
僕は一瞬ぎくっとした、何でばれたんだろう、寝た振りしてたのに…
「あー、ほら。ささっと起きろ。ここはテメーの家じゃねぇんだからよ」
恐る恐る、布団から出るとそこには、 赤髪で赤眼の背の高い青年がいた。
上半身は裸で狼、蛇、下半身が骸骨の女の人の刺青をしていた、下は成人式などでよく見る長袴だった。
頭はぼさぼさで、いかにも寝起きと言う感じだ。
「え、えっと。ここはどこですか?あなたは?」
「そういう時は、お前から名乗れよ」
腕を組み、いかにも不機嫌そうだ。
「僕は立花 アキっていいます」
「……俺はロキだ。ここはヴァン神族が住んでいるヴァナヘイムだ」
ロキという男はじっとこっちを見ている。
「あのー、何ですか?」
「何ですかじゃねぇよ!いきなり、俺様が気持ちよく寝ていたのに、お前がいきなり天井から降ってきたせいでな、俺はこのざまだし、クソ忌々しい掟のせいで、俺が面倒をみなきゃならねぇだろうが」
掟?なんだろ?
「掟っていうのはだなぁ、人間と神の間の契約で、神が人間に力を与える変わりに、人間は神の命令に従うっていう契約だ。その契約を成立するためには、両方に傷をつけること」
「僕、傷なんかつけていませんよ!」
ロキが指にあった絆創膏を取り言った。
「ほら、お前が落ちてたときにペンダントで引っかかれてこのざまだ、お前は落ちてた時に腕に傷がある」
その瞬間。
「ロキィィィィィィ、なに私の人間を取ってんのよー」
その声とともにロキの頭に飛び膝蹴りが飛んできた。
「ぐふぁっ」
ロキはすっ飛び、変わりに綺麗な女の子が僕の目の前に来た。
「大丈夫!何か変な事されなかった?」
「いや、僕は大丈夫ですけど、あなたは?」
「私?私の名前はウルズ、あなたを召喚したのは私よ」
僕と同じぐらいの年齢で、髪は黒く短髪で、綺麗な黒目だった、格好は戦士のように軽く鎧を装備していて、そして、腰には細身の剣が下がっていた。
「ロキさん、大丈夫ですか?」
吹っ飛ばされたロキは、壁にめり込みピクリとも動かなかった。
「大丈夫、大丈夫。あいつはそんなことで死ぬヤワな奴じゃないわよ。とにかく、こんなむさ苦しい家は後にして、私の家に行きましょう」
「えっ、ちょ、ロキさーん」
腕を引っ張られ、ほぼ無理やり連れてかれた。


ウルズの家は、とてつもなく大きな樹の根元にあった。
ヴァナヘイムはこの樹を中心として栄えているらしい。
ある一部の人だけが、この樹を住みかとしていて、家は樹に張り付くように点在している。
何でも、上に行くほど偉くて強いらしい。
ロキの家はウルズの家より少し上にあって、家と家は白い階段で繋がっている。
そのため、街の様子が見れなかった。

「ハイ、どうぞ」
いい匂いのする、紅茶が出された。
「ありがとうございます。実は、まだよくわかってないんです。ここがどことか、なぜここに来たとか」
「えっ、まだロキの奴、話してなかったの?」
紅茶を白い机に置きいった。
「はい、光にのまれたのは覚えているんですが、あとは何がなんだか」
「えーっとね、私があなたをここに呼んだのは訳があるの。誰でもいいんじゃなくて、あなたが必要だったの」
ウルズは真剣な表情になった。
「あなた、確か10年前にお母様を亡くしてらっしゃるわね」
その言葉に僕は体がこわばった。
「……はい、交通事故で…死にました」
ウルズが僕の肩を掴み顔を近づけて言った。
「いい、実はあなたのお母様はフレイヤ女神だったの」
僕はきょとんとした。
「フレイヤ女神?このペンダントの?」
「そう、あなたのお母様は女神様なの。そして、私はウルズ、過去を司る女神、ロキは火の神。ここはヴァン神族の国、ヴァナヘイムなの」
いきなり、伝えられた真実に僕は呆然とした。
「そして、あなたはフレイヤ様とアース神族のオルズとの間に生まれた子供なの」
「で、でも、僕の父さんは普通の人だよ。ただのサラリーマンで…小さいときの写真も見たことがある」
「それは…あなたが傷つくことを恐れたフレイヤ様が後からつけたものよ」
「嘘だ…嘘だ。僕は夢を見てるんだ!」
僕はウルズの家から飛び出て、走った。
そして、大通りらしきところに出た、そこは、見たこともないような光景が広がっていた。
道には馬車が通り、僕の2倍以上もある巨人や反対に僕の半分ぐらいしかない小人、怖そうでいかにも神様みたいな人が多くいた。
空にはこれまた大きい馬車が走っており、空を飛ぶ人もいる。
一番違ったのは街の中心にとてつもなく大きい
「これで、わかった?ここは夢なんかじゃないの。そして、あなたのお母様は今、危ない状況にいるの」
後ろから、追いかけてきたウルズが言った。
「母さんが危ない状況?」
その言葉を聞き、さっきの動揺は何処かへ行ってしまった。
「実は、フレイヤ様は条約の時、人質としてアース神族のところに行った、そして、あなたが生まれた。しかし、相手のアース神族が条約を破ってこちらのヴァン神族に攻めてきた。そして、フレイヤ様を助けるために、私たちを統べるフレイ様にお願いしてあなたを召喚したの」
「え、でも、何で僕を呼んだりしたんですか?」
ウルズはフゥーと息を吐き、まっすぐ僕の瞳を見て言った。
「あなたとそのペンダント、それがフレイヤ様を助ける唯一の鍵なの、お願い、一緒にフレイヤ様を助けに行きましょ」
うつむき、静かに考える。
「何故、このペンダントと僕が鍵なんですか?」
「フレイヤ様はとてもすごい魔法使いでもあり、ラグナロクを起こせるほどだった、アース神族が攻めてきたとき、そのことを聞いたフレイヤ様は自分の力がアース族の手に落ちることを避けて、自らを封印してしまった。そして、その封印を解くには汚れ無きフレイヤの血を継ぐものとその証を示さなければならないの。それで、あなたがその汚れ無きフレイヤを継ぐ者。Chosenなのよ」


神の国は暖かかった。
辺りには草花が咲き乱れ、女神達が草花の妖精と戯れている。
僕はロキの部屋の1つを借り、窓のから辺りの景色を眺めていた。
「……これから、どうするんだ?」
ロキが、いかにも眠そうにたずねる。
「帰ってもいいんだぜ、俺の力でお前を人間界に戻すことなんて朝飯前だ」
僕は、景色を眺めながら言った。
「でも、契約はどうなるんですか?最初の予定だと、ウルズさんと契約して無理に行かせようとしたみたいですが…」
「契約はな、契約者が契約を解く、と呪文を唱えればいつでも解けれる」
まだ、景色を眺める。
「それにな、俺はハッキリ言ってお前との契約をさっさと解いて、お前を人間界へ送り返したい」
やっと振り向いて、ロキにたずねる。
「何故?」
「…俺はもともとアースの出身だ、訳があってこっちに逃げてきている。俺は、わざわざ命を捨てに行くようなことはしたくない。しかし、契約者は契約したものとある程度の距離を離れてはいけない、これも契約の中にある。で、どうなんだ?助けるか、今までの生活に戻るか…」
僕は、うつむき少しの間、静寂がこの部屋を包んだ。
「…僕は…母さんを…助けたい……」
「本当か?」
「僕は!母さんを助けたい!」
僕は思いっきり叫んだ。
ロキは頭を撫でた。
「よし!良く言った!俺も一緒に行くぜ!」
「えっ、でもさっき、行きたくないって…」
「わざわざって言っただろう。実は、アースの奴らに恨みを返さねぇといけないんだ、お前が例え行かなくても、俺は行ったさ。悪かったな、もう1つ嘘がある。俺はお前を人間界に戻す力は無い。もともと、フレイ神が召喚し、フレイヤ女神が元に戻す役目なんだ」
「じゃあ、もし僕が元の生活に戻してって言ったらどうする気だったの?」
「その時は、鎖でグルグルにされてでも、連れてかれただろうなぁ」
「ひどい…」
「まぁまぁ、そう言うなって、殺されないよりはましだろ」
「まぁね」
いつの間にか、僕の顔には少しながら笑みがこぼれていた。


窓の外からウルズの声が聞こえてきた。
「おーい、ロキとアキー、ちょっと私の部屋に来てー。話したいことがあるのー」
僕とロキは白い階段を渡り、ウルズの部屋へと向かった。
「何だー、何かあったのか?」
「何であんたは、いつも上半身裸なのよ!」
ウルズが持っていた本でロキの背中を叩く。
「イテッ、しょうがないだろ、風呂上りなんだからよぉ」
文字通り、頭はビショビショで、いかにも慌てて出てきたという感じだ。
ウルズはあきれたように言う。
「ったく、少しは神様らしくしなさいよ。アホみたい」
「お、アホみたいとはなんだよ、俺は馬鹿だ」
ウルズはイライラしているようだ。
「どっちも同じでしょ!」
「違うもんねー、アホは死んでも治らなくて、馬鹿は死んだら治るんだよー」
「このっ、ガキみたいな言い訳してっ」
このままではらちがあかないので、僕が割り込んで聞く。
「で、何のようですか?ウルズさん」
「あ、そうそう、あなたに渡したい物があってね。それとロキはフレイ様のところに行くこと」
「げ、そういうのは早く言えよ、急いで着替えねぇと」
ロキはものすごいスピードで部屋に戻っていった。
「僕に渡したい物ですか?」
ウルズは1つの箱を取り出した。
「こうなると予感して、フレイヤ様があなたに宛てた物よ。中身は知らないけど、フレイヤ様が人質になる直前の朝に私が預かった物なの」
僕は箱を開けると、そこには1つの指輪があった。
「これは?」
指輪を手に取りウルズに見せてみる。
「さぁ、私にも分からないわ、神々は沢山の宝物を持ってるし、多分フレイヤ様の宝物だと思うよ」
「へー、これが母さんの指輪かぁ」
指輪を両手で握り締め、懐中時計のチェーンに指輪を通した。
そして、ウルズに聞く。
「どうやって、母さんを助けるんだい?」
ウルズは一枚の大きな地図を広げた。
地図の中で一番南にある街を指して言った。
「いい?今、私たちがいるのがこの街」
次に斜めに指を滑らせ、1つの塔を指した。
「そして、ここがフレイヤ様を封印している塔よ」
「結構、遠いね」
ウルズはさらに付け加えて言った。
「それに、ここはアース神族の領地内だからどんな敵と遭遇するか分からないわ」
その時、ロキが戻ってきた。
格好はいかにも神様らしく、頭はオールバックで整えられており髪飾りが、服装は黒いマントをはおり、肩には炎の神らしく炎をかたどった肩当てをしており、鎧の姿で、足首には一枚の羽が付いた飾りをつけていた。
「おい、二人とも、フレイが呼んでいるぞ」
急いで、地図を片付け、ロキとウルズと共にフレイ神がいる、厳格の間というところにやってきた。
厳格の間は樹の一番上にあり、街を一望できた。
フレイ神の周りにはすでに神らしき人々が並んでおり、一人、人間でいる僕を一瞥した。
フレイ神はいかにも偉そうな椅子に座り、眠たそうな眼でこちらをじっと見つめていた。
しかし、ヴァン神族の王と言うだけはあって、他の者に有無を言わさないオーラが漂っていた。
神の中でも1、2を争う美麗な顔にもなぜか威厳があった、髪は黄金で神聖な雰囲気をさらに際立たせていた。
「よくきた、我が妹フレイヤの子よ。働きは期待しておるぞ」
その声は、透明に響き心に深く刻まれるようであった。
そういうと、フレイは手をかざした。
ウルズが僕の背を押し、フレイの前までやってきた。
「汝、立花 アキにフレイ神のご加護があらんことを」
フレイ神の手が光り、何とも言えない温もりが僕の体を伝った。
僕は仰々しく下がると、ウルズのいるところまで戻ってきた。
「これで、旅立ちの儀を終わる」
そうフレイ神がいうと、周りを囲んでいたほかの神は皆、煙の様に消えていった。
「これで、終わりですか?」
階段を下りていく僕はウルズに訪ねた。
「ええ、後は出発のみよ」
「なんか、味気ないですね」
「しょうがないわよ、あなたには無理って思っている神が大体ですもの」
「まぁ、それを何とかするために俺達がいるんだけどな」
ロキが間を割ってきた。
「とにかく、急がねぇとな」

出発は3時間後、それまでに準備をしないと。
「うーん、殆どが神専用のやつだから、あなたにはちょっと合わないわねぇ」
ウルズがクローゼットらしきところからゴソゴソしながら言ってる。
ウルズがゴソゴソやっているのをよそ目に、僕は机の上にある地図を見た。
「へぇ、結構大きいなぁ」
「そうよ、なんてたって、神の国ですもの」
いつの間にかウルズが後ろにいた。
「ハイ、これ」
渡された物は、マントと古臭そうな服だった。
「こんなので良いんですか?」
「こんなのとは失礼ね。これでも織るのに結構苦労したのよ。でも、あなた可愛いわねぇ、お姉さんが相手してあげようか?」
後ろから色っぽい声が聞こえてきた。
振り返ると、そこには金髪で、大胆な服を着た背の高い女の人が柱に寄りかかっていた。
「こら!ノルン、変なこと言わないの!」
ウルズが叫ぶ。
「ケチねぇ。いいじゃない、姉さんはいつも得しているんだから」
その長い金髪の髪をかき上げながら近づいてくる。
「あの…僕には何がなんだか…」
「ああ、ごめんなさい。この子はノルン、私の妹よ」
「よろしくね、アキちゃん。その服は私が織ったの。デザインはイマイチだけど、特別な魔法がかかってるのよ」
「特別な魔法?」
ノルンは顔を近づけて言う。
「そう、特別の!だから、フレイヤ様を助け出せなかったら承知しないんだから!」
くすくす笑いながらノルンは僕の鼻をチョンと触り、手を振りながら去っていった。
すれ違いざまに、ロキがやってきた。
「こっちはOKだ、下に馬用意させたぞ」
「うん、こっちもOKよ。それじゃ、行きましょ!」
こうして、ひょんなことから始まった物語はまだまだ続く…
そう、母親フレイヤを助け出すまで…


While there's life, there's hope.
〔生命のある限り、希望はある〕
- Terence(テレンチウス)



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